ゆえん



     *

愛する家族を一気に失った冬真は、何に対しても無気力で、自分だけが生きていることが虚しい毎日をただ過ごしていた。

浩介と楓がよく訪ねてきてくれた。

心配させてはいけないという思いと、もしかしたら、沙世子と真湖がひょっこり帰ってくるかもしれないという、ありもしない微かな期待が残っていて、仕事を辞めてはならない、と馬鹿みたいに会社に出勤していた日々を送っていた。


一周忌を迎えた時に、戻ってくることなんかあるわけない、と自分に言い聞かせることになった。

沙世子の親までもが、自分に再婚を勧める。


「まだ若いのだから、幸せになれるよう頑張らなきゃ」


向けられた笑顔が痛かった。

それ以後、勤務中はなるべく仕事に徹していこうとはした。

だが、ふとした瞬間に目に映る家族連れや、幸せそうな笑顔に心を打ちのめされることが多く、仕事も休みがちになっていった。

皮肉なことに二人が事故で亡くなったことで遺してくれたお金で、しばらくは生活に困ることもなく生きていけるのだ。

周りが心配してくれているのがわかっていても、ますます自分独りの殻の中へと、思い出の世界へと入っていった。