今日は高校生バンドが五時からと六時からで、大学生バンドが六時から、社会人バンド一組が七時から、スタジオを予約していたが、それほど忙しくもない。
葉山浩介はこの『You‐en』の経営者でもあるが、ここより先に作った『Rai』というライブハウスの経営者でもあった。
二つの店舗は五百メートルほどしか離れていないので、楓はいつも両方に顔を出して、忙しそうな方を手伝うのだ。
「そっか。じゃあ、今日は浩介のほう、行ってくるね」
「はい。気をつけて」
楓が出て行く後ろ姿を見ていると、時間より少し早めについた大学生二人がカフェコーナーに入ってきてコーヒーを注文した。
セルフサービスなのでコーヒーが入るまでカウンター前で待っている二人の会話が冬真の耳にも届いた。
「じゃあ、やっぱり一緒に帰っていったんだ? あの理紗って女」
「そうらしいけど、やっぱり違う、って言われたらしいよ。その変わりぶりに秀明もびっくりしたってさ」
「なんなの、それ。わけわかんねぇ感じの人だな。ちっと俺はパスしたいね、そういうのは」
ここに来る大学生はこの町に住みながら隣の市の大学に通う者たちが多かった。
大学に入る前もこの店を利用していた子たちがほとんどで、繰り返し耳に入る名前は冬真も記憶に残っていく。
理紗って聞かない名前だなと思いながら、冬真はソーサーにカップを載せる。
「はい。どうぞ」

