ゆえん



沙世子と同じ顔をして残酷な真実を言う。

沙世子と同じ顔をして〈赦せない〉と動く口。

修二と菜穂を東京まで連れて行ったのは自分だ。

だが、もう十年以上も前だ。

そのことが何の因果で、沙世子と娘の真湖の命に降りかかったのだ。


頭を起こし、外を見ると、理紗がその場で肩を震わせて泣いていた。

今、ここで泣いているのは悪魔か、それとも沙世子の分身か。

全てを認め受け入れる心が自分にあるのか、罵声を浴びるべき者は誰か。

傷付ければ気が済むのか。

……沙世子は何を望むだろうか……。


「……ごめんなさい、ごめんなさい」


車の横で幼い子が泣きじゃくるように理紗が泣いている。

彼女を見て冬真は思う。

修二と菜穂を東京へ連れて行ったのは冬真だということを知っても、彼女はこんな風に泣いただろうか。

沙世子と真湖の死を誰かのせいにするとしたら、その中に自分も含まれていることをより強く感じてしまった。

その自分が彼女を責めても、きっと誰も救われることはない。


理紗は泣いたまま、冬真の車に背を向け、歩き出した。

なにか声を掛けたほうが良かったのかもしれない。

そうは思っても、今は何を話してもお互いの心に刺さる針を吐くだけのような気がしてならなかった。

理紗の姿が見えなくなるまで、冬真は車から降りなかった。


店に戻ると、閉店間際にもかかわらず、十数名の客がカフェコーナーに居た。

サラリーマン風の三人の男が、楓を交えて談笑していた。

冬真の姿に気付いて楓が微笑みかけてくれた瞬間、冬真の心の糸が緩んだ。

ここには笑顔がある。

救われる気がした。