「……理紗には悪かったと思うけれど、後悔はしてない」
当たり前のことを言うような口ぶりで修二は言い切った。
その様子は修二の揺るがない何かを冬真に感じさせた。
それは理紗も感じただろうと思う。
理紗はコーヒーをブラックのまま一口飲んだ。
そして小さく頷き、下唇を強く噛んだ。
「私は……悲惨だった。修ちゃんが居なくなってから……ううん、四年前からは地獄と同じだよ。なんで後悔してないなら四年前に戻って来たの? どうして私を見掛けたのに、無視したの? そのせいで私は……あんな、取り返しのつかないことを……。あんな……」
堰を切ったように理紗は興奮し、嘆く。
その様子に冬真も修二も驚いて言葉を失った。
取り返しのつかないこと、それは何を言っているのだろう。
「……私のこと、本当に好きだったことある?」
理紗の声が震えた。
その言葉は修二に何かを気付かせ、表情を曇らせた。
しばしの沈黙の後、覚悟を決めたかのように修二は大きなため息を吐き、そして選び抜いた言葉を口にした。
「覚えて、いない」
修二の一言の後、理紗はテーブルにあったグラスの水を修二にぶっ掛けた。
「残酷な人。私がどんな闇に突き落とされたか、知りもしないで」
水を掛けられたことで、修二は微笑んでいた。
「それでいいんだ。怒りと憎しみは全てここで捨てていけよ。そのために冬真が連れてきたんだろう」
周りの視線が注がれている。
それでも修二は毅然としていた。
理紗が冬真の顔を見る。
冬真は何も言えずに理紗を見つめた。
これで良かったのだろうか。
不安が顔に出ないように瞼を閉じた。

