その日は理紗が図書館に来る時間より早く、修二が菜穂の目の前に現れた。
「昨日、菜穂さんが夢に出来てきてびっくりしましたよ」
「え、本当に。私も昨日、修二君の夢を見たのよ」
「菜穂さんも。なんかスゴイな、本当にこういうことってあるんだ」
「……どんな夢だった?」
「それは……ちょっと言えないですね。嫌われそうで」
修二は照れ臭そうに小さく笑って、本棚のほうへ行ってしまった。
菜穂はカウンターで修二の後ろ姿を見ながら、これだけの会話が自分の心に今までにない刺激を与えていることを感じていた。
その時から菜穂は勤務中の暇な時間にあることを想像し始める。
最初はただの妄想だった。
それが次に修二と目が合った瞬間の彼の表情で、衝動に変わった。
理紗が居ない時間帯に、二人で話すことが日に日に増えていく。
妄想から現実へ、退屈な毎日からの脱出。
修二が自分に惹かれ始めていることが、菜穂にはわかっていた。
自分の存在価値が見出された気がして堪らなく嬉しかった。
それと同時に二人の変化を知らずに、理紗が修二と付き合っているような言動を自分の前ですることが腹立たしく感じ始めた。
想い合っているのならば、誰に遠慮することはない。
それが自分の両親たちが実際にしてきた行動なのだから。
誰かを本気で愛する喜びと嫉妬心への勝利。
菜穂は既婚者であること、修二が学生であること、理紗を裏切っていること、全ての背徳感を拭い捨てていった。

