図書館でよく見掛ける隣の家の少女はどこかに孤独を漂わせていて、菜穂は彼女に自分の高校時代を重ねて見ていた。
だからこそ声を掛けた。
だが、実際話してみると、彼女の中に自分と重なるところはなく、皮肉にも腹違いの妹の姿を思い出させた。
一人娘で両親の愛情を一身に受けて育っている愛くるしい理紗の言動は、菜穂が少女時代に手に入れることが出来なかった愛情への嫉妬心を思い出すきっかけとなっていった。
我がままで、思ったことを口にすることに何の遠慮も感じていない少女を羨ましくも思いながら傷付けたくなる衝動が沸きあがる。
「理紗ちゃんに会えるのは嬉しい。暇なときはいつでもおいで」
菜穂の優しい言葉を鵜呑みにして、兄弟のいない理紗は菜穂を本当の姉のように慕い、心を許していた。
そして、菜穂が複雑な家族関係の中で素通りしてしまった初恋を理紗は謳歌している真っ最中で、その相手のことを夢中で話していく。
次第に菜穂は理紗が夢中になっている修二に目がいくようになっていた。
若い二人は日に日に仲良くなっていく。
図書館と自宅の往復で、楽しみがない自分とは違い、楽しみに溢れている理紗の姿を羨ましく感じた。
菜穂の嫉妬は妹のことから理紗の若さと素直さへ、そしてその容姿へと増殖していった。

