アパートで二人暮らしをすると言っていたのに、結婚三年後には夫の両親と同居することになってしまった。
気に入られようと努力した時もあったが、菜穂の家庭環境を調べていた姑は何かと菜穂のすることにケチをつけてきた。
家にいても気を遣う生活がまた始まってしまったのだ。
次第に菜穂はこの結婚生活にうんざりしていった。
夫は結婚後から見る見るうちに太りだし、実際の年齢よりも十歳くらい上に見られることもしばしばであった。
ときめきも希望もない。一人になりたいと思い始めていた。
図書司書の資格を持っていた菜穂は、夫に「勤めに出たい」と言った。
家を新築する費用を貯めるためと口実を作り、密かに家を出るための資金を作らなくてはと行動に出たのだ。
職探しと市立図書館に欠員が出たタイミングが運良く重なり、そこへ勤務することになった。
職についた頃は良かった。
今までの家庭だけの日常から、一社会人として扱われることに喜びを感じていた。
だが、仕事に慣れてくると、菜穂はまた単調な毎日に戻ってしまった気がしていた。

