ゆえん



菜穂は小学生の時に両親の壮絶な離婚劇を目の当たりにして、最終的には母親が一人出て行き、行方を晦ませた。

母親に捨てられたと思った。

幼い心を傷つけたのはそれだけではなかった。

父はすぐに再婚し、妹が生まれたのだ。

何も知らず慕ってくれる妹を可愛いと思ったこともあった。

しかし、新しい母親には馴染めなかった。

父親をとられたという心の底にあり続ける思いを無くすことが出来ない。

そして自分が居ない時の家族三人の楽しそうな姿を見るたびに苦しんだ。

実の母のところに行けば、甘えられるかもしれない。

そんな思いが膨らんでいった。

しかし、現実は菜穂の思いを否定した。

菜穂が高校生になって、やっと自分の母親を探しあてた時、母親は別な家庭で幸せそうに暮らしていた。

傷付くのが怖くて、会わずに帰ってきた。


言いようのない孤独感と、現在の両親にとって本当の娘である妹に嫉妬しながらも、良き姉を演じ続けて、短大卒業と同時に結婚をした。

気を遣い続ける家から早く飛び出したかったのだ。

父も継母も反対せずに心から喜んでいるようだった。

それがまた、菜穂の心に闇を作った。

新しい家庭で、七つ年上の夫と共に穏やかに暮らすのは悪くないと思っていた。

しかし、菜穂が思い描いていた結婚生活は次第に別な形になっていった。