「人に赦しを請うとき、自分も赦せないでいた誰かを赦してあげなくちゃいけないって、浩介さんに言われた。だから、私はその人を、菜穂さんを赦さなくちゃ前に進めないのかもしれない」
浩介らしい言葉だと、冬真は心から感じていた。
だが、〈赦さなきゃいけない〉って何だろうか。
大きく息を吸い、理紗は言葉を続ける。
「菜穂さんは、私が高校一年のとき、私の大好きな修ちゃんを連れて行方を晦ました」
「……」
突然の話の展開に驚きながらも、十年前のあの夜のことが冬真の頭の中に浮かんだ。
あの時修二と一緒だった女性が、理紗が話す菜穂だったのか。
「私は騙された上に利用されたの」
今思い出しても、悲しくて悔しいという表情で、理紗は下唇を噛みながら、カップを見つめていた。
「修二のこと、好きだったのか」
「修ちゃんは私の彼氏だった」
「え」
驚く冬真を見て、理紗が怪訝な表情を浮かべる。
「君と付き合っていたの?」
「……あの女は知っていたわ」
悔しさと怒りを伴っているのか、彼女は下唇を強く噛み締めている。
「もう何年も前のことでも、私の中で終われてないの。修ちゃんのことは」
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。

