ゆえん



店はさほど忙しくなく、正午を迎える頃には客は引けていた。


「パスタでよければ作るけど、食べる?」

「……」

「今朝、待たせたお詫びに」


冬真はナポリタンを手早く作り上げ、それを二枚の白いお皿に分けて、一枚を理紗に差し出した。


「……ありがとう」


やや遠慮がちに俯き、理紗は受け取った。

一昨日、冬真の家に来た日から、なんとなく理紗の雰囲気が変わったような気がする。


「……私ね、一人っ子なんだけど、高校生の時にね、本当のお姉さんだったら良かったのになぁって思うほど、慕っていた人がいたの」


ナポリタンを食べ終わると手を止め、ゆっくりと理紗が話し出した。


「そう」

「その人は隣の家に来たお嫁さんで。すごく優しかった」

「優しかった、か」


冬真の言葉に理紗の表情は強張っていた。

過去形が気になった。

様子がおかしいな。

一体何を話そうというのだろうか。


「コーヒーでも飲もうか」


理紗はこくんと頷いた。

冬真がコーヒーを淹れている間、理紗は自分の中で何かを整理するかのように、小さく呟きながら頷いていた。


「はい」


両手でカップを包むように持ち、理紗が顔を上げた。