「ドアが開かなかったから、忘れられたかなと思ったけど、中に居たんですね」
冬真は苦笑いをして頭を下げた。
理紗の言うとおり、今日理紗が来ることをすっかり忘れていた。
無意識のうちに沙世子と真湖のことが蘇ってばかりだった。
今更考えても何がどう変わるわけでもないことを十分にわかっているつもりでもだ。
「修二の連絡先ならわかるよ。どうする?」
理紗は一瞬驚いたように目を見開いた。
「そのことだろう。俺に訊きたかったことは」
「修ちゃんには、会いたい」
呟くように言った後、理紗の後方で声がした。
店の常連さんたちの姿が見えた。
「悪い。続きはまた後で」
「あ、手伝ってもいい?」
「え」
「手伝うから、手が空いたときに話を聞いて」
今までになく理紗の瞳に真剣さと切羽詰った感じを見た。
「わかったよ」
理紗の申し出を断るのはいけないような気がして、冬真は承諾した。

