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深酒をしてしまった。
目が覚めたときには、朝日が室内を暖かい空気で覆い、時計を見ると九時になる十分前だった。
自分でも感じるくらい、酒臭い。
冬真は顔を顰めた。
前日の酒が残ったままの朝を迎えるのは久しぶりで、この時ばかりは今の自分の仕事を呪った。
自分が行かないことには、多くの人に迷惑を掛ける。
楽しむためにやってきた『You‐en』で、逆にストレスを感じさせてしまう。
責任感だけが冬真を起き上がらせた。
軽くシャワーを浴びて、時計を見ると九時を回っていた。
十時までに開店の準備をしなくてはならない。
アルコールが抜け切らなくてまだぼぉっとしている頭を乾かして整え、洗い立ての開襟シャツとジーンズを着て、家を出た。
徒歩で数分も掛からないくらいの距離に職場があってよかったと冬真はしみじみ思った。
これならなんとか、開店時間までに準備が出来るだろう。
裏口から入り、昨日既に下準備をして置いた今日のメニューのデザートを作る。
今日の和は芋ようかん、洋はカフェプリンクレープだ。
やらなくてはいけないことが目の前にあると、余計なことを考えなくて済む。
一通りの準備を終え、メニュー看板も書き終えた冬真が正面の鍵を開けに行くと、そこには理紗が立っていた。
太陽の光の中で、一瞬沙世子に見えてしまった冬真は、立ち尽くしてしまった。
「おはようございます」
「……おはよう」
ズキンと痛む頭で、昨日の理紗の言葉を思い出した冬真は慌てた。
「ごめん。九時半だったよね。申し訳ない」
もっと早く思い出すべきだった。
理紗は冬真が中に居ることにも気付かずに待っていたのだ。

