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沙世子がいなくなってから、彼女の日記を見てしまったことがある。
結婚式の前日の日記に書かれていた言葉が今でも頭に焼きついたままだ。
〈二番目でも気にしない。愛されていることがわかるから。冬真を本当に幸せに出来るのは自分だって信じているもの。私は一番好きな人と結婚できる幸せ者だから、私が冬真を幸せにしてあげる〉
どうして沙世子は自分が二番目だと感じていたのだろう。
どうして彼女がそう想いながら傍に居たことに気付けなかったのだろう。
自分は沙世子への想いを言葉にして伝えたことがなかったかもしれない。
彼女の日記に度々出てくるこの言葉は、冬真を苦しませた。
自分にとって沙世子が何よりも大切だったことを彼女は知らないままでいたのか。
自分の想いをしっかりと伝えないままで過ごしていた自分の愚かさを思い知った。
今更何を悔いても始まらない。
だが、悔しさと淋しさだけが注がれるグラスを冬真は飲み干すしかなかった。

