「時間がなかったしな。菜穂が知り合いを見掛けたっていうから、慌てて帰ってきてしまったし」
「そうか……まだ親には会ってないのか」
「いや、その時、お互いの両親には会って来たよ。大変だったけどな。もう四年も前の話だ」
四年前……。
修二が口にした四年前というキーワードが、冬真の心をえぐる。
次々と当時のことが思い出されて、冬真の心の穴を塞いでくれていた年月たちが、粉々に飛び散っていくようだった。
このまま話し続けていると、また真っ暗な闇に飲み込まれそうだ。
それを避けたかった冬真は、葉山夫妻とともに店をやっていることを伝え「こっちに来るときは会いたいな」とだけ言って、電話を切った。
本当は理紗のことを覚えているか訊くはずだった。
〈沙世ちゃんをちょっと幼くした感じの女子高校生がよく図書館に来ているよ〉
大学時代に修二が言っていた。
沙世子に似ている人がこの町にそう何人もいるとは思えないし、理紗の様子からだと、修二は彼女にとって大きな存在であったことは確かなはずだ。
だが、電話を切った後の冬真に理紗のことを気に掛けてやる余裕はなくなっていた。
電話口の向こう側で幸せに暮らしているであろう修二に、沙世子と真湖のことを話す強さがなかった。
話せば、消えることのない闇を修二にぶつけてしまいそうになる。
自分の口からはまだ話すことが出来ない。
最後に見せられた二人の姿がどうしても浮かんできてしまう。
「……あああっ」
両手で頭を抱えて、冬真は叫んだ。

