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理紗の行動に不自然さを感じながらも冬真は今朝の浩介の話を思い出して、修二についての記憶をもう一度辿っていった。
修二から一度だけ連絡があった時に、確か新しい携帯電話の番号を聞いたはずだ。
携帯電話のアドレス帳には修二の名前が残っていた。
もう十年も前のことだが、もしかしたら今もこの番号を使っているかもしれない。
冬真は電話を掛けてみることにした。
「もしもし」
八回目のコールで出た声の主は、警戒するような声で出た。
「修二か?」
冬真が尋ねる。
「……冬真、なのか?」
「ああ。久しぶりだな」
「びっくりだな。ほんとうに冬真だ」
急に声のトーンが変わり、気を抜いたのが電話越しにも伝わった。
冬真は何から話そうか迷いながらも、近況を聞いた。
修二は東京都内で就職し、あの時の年上の女性と既に結婚しており、二人の子どももいるそうだ。
「幸せそうだな」
「まあな。生活は楽とは言い難いけどな」
照れ臭そうに言っているのがわかる。
幸せに違いない。
久しぶりの友人との会話は心を和ませた。
自分の隣に沙世子がいない時がくることなど、想像もしなかった頃が蘇る。
いろんなことが思い出されて、懐かしくて、理紗のことを話すのを忘れてしまいそうになった。

