ゆえん

 

冬真は頭の中を整理しながら、考えた。


〈沙世ちゃんをちょっと幼くした感じの女子高校生がよく図書館に来ているよ〉


まさか修二が言っていたその女子高校生が、理紗だったというのか。


「まったく同じ人なんていないと頭ではわかっているけど、ってな」


浩介の言葉は冬真の体の細部にまでしびれるような響き方で、それがどうしてなのかを考えないわけにはいかなかった。

そして辿り着く。

頭ではわかっているが心がついていかないからだ。

それは冬真自身の体の中で常に起こっている現象だ。

沙世子にどんなに似ていても全く違う人間の理紗、別人だと分かっていても頭と心が反発しあっているかのように手を握ってくれない。


「私は幸せになる資格はない」

「え?」

「そんなことも言っていた」


それだけを言って、浩介はスタジオを出て行った。