ゆえん

スタジオにはそれぞれドラムセット、キーボード、アンプ、マイクスタンド等が置いてあり、カフェよりの一室には録音機材も揃えてある。

浩介や冬真が高校生時代、バンドの練習場所がなくて悲惨だった経験から出来たスペースだ。

スタジオには楓の意見も生かされている。

音楽に夢中な男の子に恋し、憧れている女の子たちに、その練習風景をさり気なく見せてあげたいと、スタジオの廊下側には縦長い窓を三つずつ付けた。

中からはそれがあまり気にならないよう、少し暗めのガラスを使用しているが、見られていることがわかるようにはなっている。

誰かに見られているというのは、練習がはかどり、スキルアップに繋がるだろうという理由もあった。


「それにね、母親にとってもこっそり見たいものでしょう。我が子の熱中している姿って。浩介のお母さんが言っていたもの」


 その母親たちが来ることで甘味カフェの売り上げも上がるだろうと彼女は言う。