ゆえん


そんな理紗につい目がいってしまう冬真に楓は気付いていた。

楓もまた、理紗の表情の変化を気にせずには入られないようだった。


「このチーズケーキ、美味し過ぎてなんだか哀しい」


珍しくデザートを注文した理紗が、食器返却口に向かう際、わざわざ冬真の目の前に来て言った言葉に、冬真の動きが止まってしまった。


「かなしい、かな」


冬真が訊くと、上目遣いに冬真を見た理紗は、その視線を皿へと下げる。


「最後の一口がとても。あ、なくなっちゃうって」


何も言えず、冬真は理紗の顔を見た。

理紗は白い皿を眺めたまま言葉を続けた。


「なくなった瞬間、そこに存在していた事実も曖昧になるのかな。……美味しければなおさら、また欲しくなる」


沙世子が大好きだったレアチーズケーキを食べて、沙世子と瓜二つの顔でそんなことを言う。

冬真は珍しく客に背を向けた。

心の奥に仕舞い込んであった感情が漏れ出してくる。

理紗は気に留めることなく食器返却口に皿を置きに歩き出した。

その様子を冬真の斜め後で楓が見ていたことに、冬真自身は気付いていなかった。