「どうしたの?ぼぉっとしちゃって」
楓の声で我に返った冬真の視線の先を楓も捕らえていた。
「つい、目がいっちゃうよね、彼女には」
そして冬真を見つめた。
「……そうかもしれないです。でも……」
言いかけて、言葉を選ぶ。
「……やはり別人なんですよね」
「……急に沙世ちゃんに会いたくなっちゃった」
電話でも掛ければ、沙世子がここまで会いに来てくれるように楓が言った。
スタジオのドアが開いて、ギターを背負った少年たちが帰っていく中、直斗の一人だけがカフェコーナーに向かって歩いてくる。
真っ直ぐに理紗の正面に行き、そこに座る。
どう見ても理紗のほうが十歳近く年上のはずだろうに、なんの違和感もなく二人は微笑み合う。
誰の視線も関係ないようだ。
直斗が理紗に惹かれるのはなんとなく理解できると冬真は思った。
あの年頃は大人の女性に憧れるものだし、理紗は人目を引くほどのスタイルでかなりの美人だ。
少年なら高嶺の花相手にでも純粋に挑める。
だが、今日の二人はどちらかと言うと、理紗のほうが直斗に憧れているかのような目をしている。
二人は顔を寄せ合い、小声で何かを囁き合って席を立った。
以前から店内には直斗の姿を見たくて待っていた女子高校生が数人来ていた。
今日も同じように女子高校生たちが来ているが、理紗と直斗の雰囲気に声を掛けられないでいる。
その中を二人は並んで『You‐en』から出て行った。
姿が消えてから、二人のことがあちこちのテーブルで語られていることに気付き、楓は苦笑いをしていた。
冬真はなるべく耳に入らないようにするため、使用済みの食器類を洗っていた。

