女性は私の次の言葉を、身を乗り出して待っていた。
「私はバイトの人間なので、よくわかりません。今、店長は出掛けていますし」
喉の奥で唾を飲み込む。
「店長さんは何時頃に戻られますか?」
「わ、わかりません。私、仕事しなきゃ」
女性に一礼をして、私は逃げるように店内に入った。
女性が私の後を追って入ってくるかと思ったが、彼女は深く溜め息を吐いて、車内に戻り、店の駐車場から出て行った。
美穂子はいったいどうしているのだろう。
美穂子本人がマユを迎えに来るならわかるが、面識のない人にマユを引き渡すわけにはいかない。
どういう状況で、どんな理由でここにマユを置いて行ったのかが分からない限り、美穂子以外の人にマユを渡すわけにはいかないのに。
そこまで考えた自分を、不思議に思った。
今まで声を掛けて付き合ってきた男たちや、そのせいで傷ついた女たちのことを心配したり同情したりすることは無かった。
私はもっと酷い目に遭ったのだ。
男と女の事なんて何の保証もないのだから。
相手の心なんて気遣っている余裕はない。
そう思いここまで来た。
でも『You‐en』で働くようになってから、自分が変わってきたように思う。
クールな雰囲気でも穏やかな冬真さん、お節介な楓や気さくな常連客、ドンと構えている浩介さん。
そしてマユの愛らしさに触れることで、十六歳の誕生日から閉ざされていた心の鍵が解けていく。
もう私は変わることが出来ないと思っていたけれど、今、マユのことを心配していた自分に驚いたのだ。

