ゆえん



白髪交じりの頭が動いたのが見えた。

よく見ると、年配の女性が一人、車に乗っていた。

女性は私に気付くと、運転席に乗ったまま、頭を下げた。

釣られて私も頭を下げていた。

女性は車から降りてきて、私に近付いてくる。

そして、私の正面でもう一度頭を下げた。


「あの、このお店に女の子はいますか」

「女の子ですか?」

「はい」


マユのことを言っているのだろうか。

迂闊に答えてよいものか迷っていると、女性は「三歳くらいの女の子なんですが」と付け加えた。

やはりマユのことを言っているのだろう。

もしかしたらマユの祖母か親戚かもしれない。

美穂子の代わりにマユを迎えに来たのかもしれない。


「あの、もしかしたら――」


私は美穂子の名前を出し掛けて、口を噤んだ。

私の予想が当たっているならば、マユはここに居る必要がなくなる。

今、マユがこの店から居なくなってしまったら、私はもう冬真さんの家に必要のない人間になってしまう。

まだ私は冬真さんの心に入り込めていないのに、マユが居なくなってしまっては困ると思ってしまった。