ゆえん



結局、閉店時間が過ぎても、美穂子はマユを迎えに来なかった。

マユは待ち疲れたのか眠ってしまったので、冬真さんが厨房の奥にある休憩室のソファーの上に運んで寝かせた。


「まいったな。本当に置いていくつもりだったなんて」


美穂子が戻ってくる可能性を冬真さんは信じていたみたいだ。


「浩介さんに連絡入れたのですか」

「いや、もしかしたら母親が戻ってくるかもしれないし、レコーディングが終わってからじゃないと、浩介さんも動けないだろうから」

「そうですか」


ではこの子はどうなるのだろう。

警察に連れて行くしかないのだろうか。

ふと、修ちゃんと菜穂が居なくなった時のことを思い出してしまった。

裏切られ、取り残される孤独感をまだ幼いこの少女も味わうことになるのだろうか。