冬真さんとは対照的に、楓は彼に馴れ馴れしい。
君付けで呼ぶ時もそうであるが、彼が楓に何か頼んでいる時に、彼が言い終わるのを待たずに「分かってる。任せて」とよく言う。
彼のことを一番知っているような顔をするあたりが、すごくいやらしい印象を受ける。
仕事で留守が多い浩介さんで物足りない部分を、冬真さんに埋めさせようとしている気がする。
過去の自分のことを棚にあげて、私が楓のことをとやかく言うのは筋違いだと分かっているから何も言わずに見ているが、無性にイラつく。
確かに私より楓のほうが、冬真さんと過ごしてきた時間が長いのだから、嫉妬しても敵わない。
だが今回のことは、その楓にも内緒に出来るのだ。
冬真さんと私だけが『マユ』が母親に置いて行かれたことを知っている。

