冬真さんの亡くなった妻は、皮肉にも私と瓜二つらしいから、私が『You‐en』に居る限り、あの二人が禁忌を冒すとは考えにくいと浩介さんは踏んだのではないか。
特に冬真さんに関しては、妻の沙世子さんが亡くなってから五年の年月が経っていても、まだ彼女のことを忘れられずにいるのがわかる。
開店前に、冬真さんが店の入り口に置く黒板を持って入ってくる。
今日の一言書くためだ。
彼は天井を見上げながら、何かを思い浮かべているような表情をして、目を閉じ、小さく頷いてからふっと微笑み、目を開いて一言を書くのだ。
きっと目を閉じている間、彼は天国にいる妻と話している。
私にはそう見える。
その姿を見るたび、神聖な儀式を目にしているように感じる。
冬真さんと沙世子さんの間に誰も割って入ることなんて、不可能だと思わせる。
私のように、心の穴を埋めるため、色んな男に声を掛けてきた女など、決して入り込めない場所なのだと痛感するのだ。

