ゆえん



「誰と一緒に来たのかな?」


「ママ。トイレにいったの」


「そっか」


冬真さんが振り返り、私に視線を向けて頷いたので、私は冬真さんの横に行った。


「悪いけど、トイレに誰かいるか見てきてくれるかな」

「はい」


女子トイレには個室が三つあるが、どれもドアが開いていた。誰の姿も無かった。

美穂子と言葉を交わしたのは三十分以上も前のことだ。

どのタイミングで彼女がトイレに向かったかを見ていなかった。

トイレだけでなく、ホールやスタジオも覗いてきたが、美穂子は居なかった。

いったいどういうことなのだろう。


「店長、トイレには誰も。……あの、この子と一緒に来た人は私の同級生で。トイレ以外も探してみましたが、いないんです」


店長は私の口の前で人差し指を立て、小さく二回頷き、マユという女の子に向き直った。