ゆえん



高校三年生になり、楓は時折、正幸の家の小屋にも足を運ぶようになっていた。

楓は大学に進学することを躊躇っていた。


「私がやりたいことって、机に向かって勉強することや働くことじゃなくて、もっと体を使って人と触れ合うことがしたい」


瞳さんは楓の意思を大切にしたいと進学しないことにも反対はしなかった。


 
穏やかな毎日が続いていた。

何の事件も無く平凡という名の退屈も心地好いと思えるくらい、俺は楓との時間も、ギターを弾く時間も大切に出来た。

あと半年後には、俺たちは高校を卒業してしまう。

瞳さんが俺に託した楓への想いに応えたい。

俺は楓に、お互いが一人前になるまで、それぞれの道で頑張ろうと伝えるつもりだった。