新年が明けて間もない頃、俺は楓から電話をもらい、アパートへ行った。
テーブルの上にはA4サイズの封筒と書類が置いてあった。
「お父さんの無実が証明されたよ」
楓は順一さんの写真の前に座り、そう報告した。
本当に嬉しそうだ。
「順一さんのお友だちが、あの記事を載せた出版社に名誉毀損の件もちゃんと処理してくれている。横領は部下の女性社員がやっていたことで、順一さんはおかしいと調べていた時に倒れてしまったの。でも、弁護士さんがきちんと調べて、事実がはっきりした」
瞳さんも本当に晴れやかな顔をしていた。
家族三人の写真がいっぱい貼ってあるアルバムをゆっくりと捲り、瞳さんは微笑んでいる。
「アルバムの中には、いつも順一さんがいるわ」
楓と俺もそのアルバムを見せてもらいながら、思い出話を聞いた。
アルバムの中の幸せそうな瞳さんとは逆に、今の瞳さんは以前に会った時よりも更に痩せていた。
「今度、医療事務の試験があって。私もしっかりと働いて、稼げる人間にならなきゃ」
やつれていても、瞳さんの笑顔は未来に向けて前向きだった。
瞳さんが俺の前で、泣いたことも、順一さんとの結婚生活の中での反省も、楓には内緒にする約束をしていた。
楓には幸せな夫婦だったことだけを覚えていて欲しいと話せなかったことだからと、瞳さんは俺に約束させた。
俺に聞かせたのは、この先の楓が、瞳さんが悔いたことと同じようなことにならないよう、見ていてほしいという『お願い』のためだったのだ。

