「家族と死に別れて独りぼっちだった私は、順一さんと駆け落ちすることで無くすものなんて無かった。大好きな人との新しい生活を得ることが出来るから、何も怖くなかったの。でも、順一さんは家族を失うことになる。そして、ずっとお父様の会社の後継ぎとして、勉強し育てられてきた過去をも、捨てなくてはいけなかったの。順一さんが継ぎたくないと思っているならまだしも、彼は継ぐつもりで生きてきた人。私と出会って私を選んでその道を失いかけた。私は彼と暮らせることに有頂天で、生活のこととか、お金のこととかまるで考えていなかったの。それに気付いた時は既に楓が生まれていた。そしてまた幸せの中で世間からも遠ざかって、彼が守ってくれている生活の中で何もしていなかった。単身赴任をすることになった時に、私は今の生活からニューヨークへ着いていくことに不安を隠せなかったの。このままここで暮らしたいという思いを捨て切れなかった。順一さんは行かないわけにはいかなかった。私たちの生活を守るため、そして、男としてたった一つと決めた仕事のためにね。やっぱりあの時、家族は離れちゃいけなかった。私は苦手な望月家の人たちとも付き合わず、自分の居心地の良い所ばかり選んで、順一さんに仕事面でも苦しませた。結局最後には、順一さんを一人で死なせてしまったの」
いつも笑顔しか見せない瞳さんが、泣いている。ただでさえ華奢な肩がより小さく見える。
「でも、瞳さんと楓がここに残ってくれていたから、俺は楓に会うことが出来ました。だから、残ってくれたのは瞳さんの都合だけじゃないんです」
「……」
「俺と楓がそういう糸を引き合っていたんですよ」
俯いていた瞳さんが顔を上げて俺を見た。

