この日、瞳さんは楓より早く自宅アパートに戻っていた。
楓は学生カバンの中から、今朝俺が目にした週刊誌を出して、瞳さんの前に出した。
「パパが横領していたなんて、あるわけない。瞳さん、パパの潔白を証明したいの。だからお願い。弁護士を雇って、ちゃんと調べて」
楓の訴えを聞きながら、瞳さんは楓の目を真っ直ぐ見つめていた。
「調べなくても分かっているわ」
静かにそう告げると、楓の頭を撫でていた。
「パパの潔白は私と楓が信じていればいいこと。それにパパの古くからの友人の弁護士さんにお願いしてあるの。費用も経費以外は掛からないから大丈夫」
「本当に?」
「そんな記事に振り回されてはだめ。楓は自分のこれからのためにも、過去のことよりしっかりと前を向いていって欲しいの。パパもそう願っているはずよ」
瞳さんの言葉を聞いて、楓はやっと納得したようだった。
俺が楓の立場でも自分の家族の潔白を晴らしたいと思う。
あんな記事ならば無視出来ないだろう。
「とにかく、パパのことは私がなんとかするから。楓は何も心配しなくていいのよ」
瞳さんのことを世間知らずなところがあると心配していた楓は、瞳さんの言葉をどう受け取ったのだろうか。
ただ、この時は素直に頷いて「分かった。もうこの話はしないね」と言っただけだった。
俺は楓に協力してと、言われたにもかかわらず、二人のやりとりをただ聞いているだけで、何も言えなかった。
俺は二人の家族ではない。
当たり前のことだけれど、それを実感した日だった。

