ゆえん



「浩介」


楓が驚いた表情で俺の名前を呼んだ。


「待ってたんだ」

「どうして?」

「うん、なんとなく」


どう言っていいかわからずに、曖昧な笑みを見せた。


「家まで送るよ」

「ありがとう」


楓と並んで歩きながら、俺は楓の表情を確かめるように見ていた。

それに気付いたのか、楓はにっこりと微笑み、そして俺の右腕に手を伸ばした。


「こうやって浩介と歩いてると、千里子さんに刺されるかもね」


思わぬ一言に俺は足を止めた。


「千里子に何か言われた?」

「えへへ」

「何?」

「何でもないよ。ただ、なにか目的はあるのかも」

「目的?」

「そう。私たちも目的っていうか、目標が出来たわ。パパの身の潔白を晴らしてあげるの。週刊誌に記事が載ったこと、千里子さんが今日教えてくれるまで知らなかった。知らないままだと、私たちの知らないところで、パパが悪い人にされたままになっちゃう。だからね、ママ、じゃなくて瞳さんに提案しようと思って」

「提案、て?」

「パパが私たちに遺してくれた保険金で、弁護士を雇って、パパの無実を証明してやるの」


強い口調で、楓が言った。


「瞳さんを説得するの、浩介も協力して」

「あ、ああ」


協力と言っても、何をすればいいのか分からないまま、俺は楓と一緒にアパートまで歩いた。