「こんな雑誌、誰が持ってきたんだよ」
「千里子だよ」
要司は千里子の居るほうを顎で示した。
この週刊誌を持ってきたのは千里子なのか。
「たまたま持ってきた雑誌にその記事が載っていただけよ。私だって、楓がその人の子どもだなんて知らなかったし」
何の悪びれもなく、千里子はそう言った。
本当に知らなかったのだろうか。俺だって知らなかったのだから、千里子が知らなかったというのも本当かもしれない。
まだこの四組だけでの噂話なら、楓の耳に届く前に何とかしたいと思った。
だが、人の口ほど早いものはない。
俺が一組に行った時は、教室の入り口で楓を指さす上級生の女子の姿を目撃した。
当の楓は、そんなことに気付いてないのかと思うくらいに平然とした表情で自分の席に座っていた。
「周りもさ、そんな大手の会社を経営する家の人間だって知らなかったから、余計に反応してるんだろう。こんな身近に全国版の週刊誌に載るくらい、有名な奴ってそういないからなぁ。良いことならちやほやするけど、話題の内容がこれだからなぁ。身の潔白を証明したくても死んでしまっては相手の言い分だけが通るしな」
要司の分析は的を得ていると思う。
正幸は元々、楓のことを可愛いと褒めていたので、心から哀れむように、そして怒っていた。
「千里子の奴、なんであんな週刊誌を持って来るんだよ。誰も知らないことで済んでたんだろ、今まではさ」
「ああ、俺も知らなかった」
放課後も楓のクラスに寄ってみたが、アルバイトがある日だからか、既に楓は教室にはいなかった。

