ゆえん



「名前で呼び合うと、親子っていうより姉妹みたいだな。俺も兄貴や妹のこと、ずっと名前で呼んでいるから」

「そうだね。もうママって呼びながら甘えているだけじゃだめなんだって、二人で二人の生活を守っていかなきゃ、強くなんなきゃて思ったよ」


叱られるのが怖くて、黙っているような少女の影は今の楓の中にはない。

楓が今、父親を亡くすという大きな痛みを経験して崩れるのではなく、母親と二人の生活を守るため、強くなろうという意思がその口調からも感じた。



急に遠いところへ、楓がいってしまった気にさせられた。

そして、高校に入ってから彼女との時間を持っていなかったことを少し悔やんだ。

アパートで楓が夕食を作るのを俺も手伝った。

料理を作るのは嫌いじゃなかった。

実際、自分の家でも、忙しそうな母親に作ってもらうより自分で作ったほうが早いと、簡単なものは作ることがあった俺は、楓に感心され、気分よく作業を進めていた。


「瞳さんは九時半にならないと帰ってこないから、先に食べてようか」


楓は俺の分の食器を出してくれて、二人で食べた。

二人きりで食事をするのは初めてで、俺は嬉しいようなくすぐったいような、照れ臭い感覚になった。

だが、楓からは全くそんな雰囲気は感じられず、時計を見て「今、忙しい時間帯かな」と呟いていた。