ゆえん



ノートの端を切り取ったとみられる小さい紙にメモしてあるものを全て購入して、楓は満足そうに商品を袋に詰めていた。

袋に詰める順番も彼女なりの拘りがあるようだった。

隣で袋に詰めているおばさんと行動がほぼ同じで、制服を着ていなかったら主婦だなと少し可笑しかった。

そしてやたらと人の視線が楓に向いているのを感じた。

この場所で楓の容姿は際立って綺麗に見える。

周りの人たちが楓に視線を奪われ、二秒ほど離せずにいるのが、隣にいる俺には良くわかった。

楓と瞳さんが住んでいるアパートへ向かう道中に、楓は父親が亡くなった時のことを俺に話してくれた。


「パパが亡くなったのは、心筋梗塞だってパパの兄弟や家の人に言われたの。お葬式とかは瞳さんが出すって言ったのに、もう密葬したからと一方的に言われて。私たちニューヨークまで言ったのだけれど、結局もうお骨になったパパを渡されただけだった。その上、望月の家に泥を塗ったなんてパパのこと……。反論したくたって、パパはもう喋ることすら出来ないのに。本当に悔しかった。それに、いくら親の反対を押し切って結婚したと言っても、一度は瞳さんのこと認めたはずなのに、勝手にお骨にしちゃうなんて酷い仕打ちでしょ。ママは自分のこと、責めてた。ママはね、生まれたときからお母さんが居なくて、高校生の時には、お父さんも亡くなってしまったの。パパとの結婚をパパの家の人たちが反対したのは、そういうこともあったみたい。ママは今回のことで、世間知らずな自分に腹が立って仕方ないって」


自分たち夫婦のことを幸せそうに話していた瞳さんの笑顔が浮かぶ。

それが徐々に笑顔では無くなっていく。

俺の頭の中でまた小さな混乱が始まっている。


「ママのこと、瞳って呼ぶのはママの希望なの。これからはママとしてだけじゃなく、たった一人の家族としてみなさいって。今まで専業主婦でいた甘えを根本的に捨てなきゃいけないって思ったから、もうママって呼ばないでと言われたの」


肩を竦めて見せても、楓の顔は淋しそうだ。