ゆえん



潔白だと信じているという言葉が何を意味しているのか、俺には分からなかった。

ただ、この電話で今、訊いてもいいことのようには思えなかったので、俺はそのことをあえて訊かなかった。


「それで、アルバイトしているのか」

「うん。瞳さんって世間知らずでさ、私の高校の滑り止め受験に使ったお金も、クレジットカードのキャッシングで借りていたみたいで。パパ名義の貯金はあったのだけど、パパが印鑑とか全て会社においていたらしくて。気が付いたら私たち、あまりお金を持ってないの。また今度、詳しく話すね。もう十円がなくなるから切るね」

「明日も、バイト?」

「明日は休みだよ」

「俺、帰りに待ってるから、一緒に帰ろう」

「わかっ――」


楓の言葉が終わらないうちに、電話は切れてしまった。

この二ヶ月間の間に、楓の家庭環境はかなり変わってしまった。

今まで、ママと呼んでいた人を、姉のように瞳と呼び捨てしている楓は、その口調だけでも中学の頃から知っている彼女とは違う印象を受けた。