ゆえん



約束どおり、楓はその日の夜に電話をくれた。

夜の八時半だというのに公衆電話から掛けてきていた。


「花火大会を一緒に行こうかなと思って、電話したんだけど、繋がらなくてさ」

「うん。ちょっと色々あって…。浩介には話そうと思ったのだけど、言えなくて」


確かに楓の声で、楓と話しているのに、今までの楓じゃない気がした。

葉山君にしろ、浩介君にしろ、必ず『君』をつけて、男子のことを呼んでいた彼女が、俺のことを浩介と呼び捨てにしているのも、不思議な感じがした。


「何かあったのか」

「……うちのパパ、六月に亡くなったの」

「えっ」

「本当に急だったから、瞳さんも取り乱しちゃって。大変だった」


いつも「ママ」と呼んでいた楓が「瞳さん」と言うのはなんだか不思議だった。


「ああ、これからはママのことを名前で呼べ、って。可笑しいでしょ。でも本当に色々あったから。パパの親戚からは冷たい言葉を浴びせられて。もちろん、パパは潔白だと私たちは信じている。その上、財産分与のこととかも色々言われたみたいで。瞳さん、望月の家の財産なんて入りませんって言ってきたの。だから、家も安いアパートに引っ越したんだ」