行動を共にしなくなって、俺の中での楓と千里子の存在の大きさの違いがはっきりと見えてきた。
同じクラスでも千里子とは言葉を交わさなくなっていた。
俺の機嫌を伺うように様子を見ていた千里子にも、夏休みに入る頃、二年生の男と付き合っているらしいと噂を耳にした。
それは大きな安心感を俺の心にもたらせた。
もう、千里子が俺に纏わり付くことはないだろう。
同時にこの話が楓に彼氏が出来た話だとしたら、俺はきっと焦り動揺するだろうと思った。
途端に楓が俺の名を呼ぶ声を聞きたくなった。
八月にある地元のしょぼい花火大会の前日に、俺は中学の卒業アルバムにある電話番号を見ながら、楓の家に電話を掛けた。
「オカケニナッタデンワバンゴウハ、ゲンザイツカワレテオリマセン」
音声が二度繰り返された時、俺は受話器を置いた。
楓が同じ高校にいることに安心しきっていた俺だが、楓と連絡を取りたい時に取れないことに気付き、俺は動揺した。
いったいどうしたのだろう。
楓に何かあったのか、それとも瞳さんに何かがあったのか。
どちらの顔が浮かんでも俺は心配をしている。
家を飛び出して、自転車で楓の家まで行ったが、そこにはもう誰も住んでいなかった。
かつての楓の家の前で、俺は自転車と共に立ち尽くしていた。
後悔は先にたたずとはこういう事なのだろう。