ゆえん



二年の初めての席替えで楓に断られてから、千里子は次の席替えに賭けていたようだったが、またも俺の隣を外し、俺の隣を引き当てた女子からも交換を断られていた。

楓は俺たちの部活のマネージャー的なことをやり、俺たちは三年生でクラスが別れたものの、相変わらずお互いの家を行き来する仲が続いていた。


俺は千里子ともクラスが別れたのだが、今度は千里子が何かと楓に近付き、ソフトボール部を引退した千里子と俺たちは何故か、放課後の教室で三人でいることが多くなっていた。

どの高校に行くかはあまり悩まずに、三人とも地元公立校である音根高校にした。

俺と千里子の成績なら、音根高校に入るのに何の心配もなかった。

ただ、楓は数学が苦手で、瞳さんはそのことをとても心配していた。


俺は、部活という形からは引退していたが、洋輔の友人たちのバンドに混ぜてもらい、夕方から夜に掛けてギターの練習をしに出掛けていた。

音根町にはスタジオやライブハウスといったものがなかったので、洋輔の友だちで親父さんが印刷工場の倉庫として使っている場所を借りて、練習をしていた。

そこでならアンプを使ってギターを鳴らしても叱られることはなかった。


大抵のことは楽天的な瞳さんが楓の数学のことだけは本当に不安なようで、よく口にした。

何とかしてあげたくて、数学の得意な千里子に言うと、千里子は快く楓の勉強の手伝いを申し出てくれた。

俺はそれを鵜呑みにして、楓に俺が居ない時は千里子と一緒に数学の勉強をすることを勧めた。

楓も、千里子の好意を素直に受けていた。