楓は自分の両親の運命的な出会いの話に憧れているところがある。
楓の話によると、瞳さんが高校生一年生の時に始めたアルバイト先のお客さんが当時大学生だった順一さんで、二人はお互いに一目惚れをし、相思相愛の中になったとの話だ。
「運命の人って本当にいるんだなぁって思ったわ」
瞳さんも自分たち夫婦の話をするのが好きらしく、俺の前でも存分にのろけ話を聞かせてくれた。
俺は、どう相づちを打っていいか分からないままに話を聞き続けていた。
そのうちに、こんな夫婦だといつまでも恋人同士みたいで、それはなんか良いよなと思うほどになっていた。
それほど、目の前で夫のことを語る瞳さんは幸せそうだったし、自分の妻にそこまで想われている楓の父親はとても幸せだろうと想像した。
望月家から交際を反対されていた順一さんは、瞳さんが高校を卒業してすぐに駆け落ちして結婚した。
順一さんは大手企業の社長の息子なので、結婚を認めることを条件に会社に戻ると言い、両親も会社を継ぐことを条件に認めた。
つまり、若い二人の恋は強く、大人の考えさえも変えたのだと楓は言う。
瞳さんは何かを言いかけては口を噤む。
「楓にもそういう運命の人が現れるから、楽しみにしていなさい」
楓の隣に立っている俺に視線を送りながら、瞳さんは楓の頭を撫でていた。
そして俺は、瞳さんのその視線に動揺してしまうのだ。

