女子更衣室から、担任の声が聞こえてくる。
ドアが少し開いていて、俺はそこから気付かれないように中の様子を見た。
「黙っていてはわからないじゃないか。故意じゃなくても間違って鍵を閉めてしまったことをみんなには謝ったのかと訊いているんだ。答えなさい」
楓は俯いたまま、下唇を噛みしめている。
その態度が担任を余計に怒らせたみたいだ。
「では、そこで一人で反省していなさい」
担任は立ち上がり、楓を残して更衣室を出ていった。
俺は見つからないように素早く柱の後ろに隠れた。
廊下から担任の姿が見えなくなったのを見届けて、女子更衣室のドアを小さくノックして、顔を出した。
「浩介君」
楓はとても驚いたようで、正座の姿勢から立ち上がろうとしてよろめいた。
「大丈夫か?」
「なんで、浩介君がここにいるの?」
「楓だけ、戻ってこないから変だと思って、担任の後ろからつけてきた」
「見つかったら浩介君まで叱られるよ」
楓の瞳が真っ直ぐに俺の目を見上げている。
この場所で、独りぼっちでいる楓の姿と、俺を見上げる彼女の瞳を見て心が動いた。
楓を一人にしたくないと思ったのだ。
「俺、叱られるの、全然平気だから、大丈夫」
楓はほっとした表情で、小さく息を吐いた。

