親しくなった楓にギターの話をすると、楓はとても興味を示してきた。

楓は幼い頃、一年ほどエレクトンを習ったことがあるらしいが、今はまともに弾けないと言う。


「私は聴くほう専門の人間なんだと思う。ママが昔、オルガンを弾いていたけど、習った訳じゃなく見よう見まねで覚えたらしいよ。そういうのってすごいと思う」

「俺のギターもほぼ独学に近いけどなぁ。まぁ、先輩たちのを、見よう見まねだな」

「そこまで好きっていうのがあることがすごいと思う。私はエレクトンにそこまで思えなかったなぁ。明日レッスンがあると思うと、また上手くできなくて怒られるかもって心配になってしまうほうだった」

「お母さんはもう弾いてないの?」

「最近はごろごろしていることが多いかも。パパには『ママは若年性更年期障害かもしれない』なんて舌出しながら言っていたよ」


楓も舌を出して見せている。


「笑えるな、それ」

「ママは根っからお茶目さんなのよ」


自分の母親をお茶目という楓は、本当に母親のことが好きなんだなと感じた。

このとき、楓は俺のことを二人だけの時は『浩介君』と呼んでいた。

教室の中では『葉山君』と呼んでいることに気付いたのはもう少し後のことだった。