ゆえん


望月楓は、俺の視線に気付いたのか、俺の顔を見た。


「もしかして、あなたも彼女の隣が良かったんだったら、悪いけどあなたが動いてくれる?」


彼女は顔を低くして俺の表情を窺っている。


「俺は誰の隣だって構わないよ。むしろ千里子と離れられるなら大歓迎だね」


望月楓がにっこりと微笑んで「なら、良かった」と言った。

それは、俺が今までに見た女子の笑顔の中で一番可愛かったように思う。


席が隣になったことで、俺と楓は急速に親しくなっていった。

楓は一人っ子で、親の愛情を一心に受けて育ってきたようで、我は強いが笑顔がとても純粋に見えて、可愛かった。

俺と楓が親しくなっていく様が千里子には不愉快だったかもしれないが、そんなことに楓も俺も気を使わなかった。