ゆえん


「はい。どうぞ」


冬真がコーヒーを二つ差し出すと、二人は受け取りカウンターを離れた。

その後ろ姿を眺め、冬真は自分の大学生時代を想い出していた。


女の話題、バンドのこと、ライブハウス『Rai』に通った日々。沙世子のことを想い出す。

あの頃は本当に良かった。

目頭が熱くなりそうでカウンターに背を向け、頭を振った。

あんな夢を見るから、今日は感傷的になる。


「ここで注文すればいいの?」


背後から声を掛けられ、冬真は返事をしながら振り返った。


「じゃあ、カフェオレ」


俯いてメニューを指さした女性が顔を上げた瞬間、冬真は息を飲んだ。

(……さ、沙世子?)

血が逆流するかのように体内で騒ぎ出す。