彼の声が頭から離れない。

『皆は偽物の俺しか知らない』

偽物なんかじゃない。
心の中に存在しなければ
言葉として出ないじゃない。

そう即座に言えれば、
今頃きっともっと近くに居れただろうに。

私の時計はその時で止まってしまった。

彼の優しさが
彼の声が
彼の言葉が
この心の中に残ったまま
呆然と日々を通り過ぎていく。

彼は、私は今どこにいるのだろう。

彼を見つめては、そう思う。
置き去りにされたまま。

彼は皆に笑顔を向ける。
けれどきっと心は泣いている。
今の自分を認められずに居る。

ならば…

私が彼を認めてあげよう。

彼が偽物だと思っていても
私はそれを本物だと信じてあげよう。

だって…

私も自分を認められずにいるのだもの。

大丈夫よ、
私は貴方が思っている以上に
貴方が好きだから。
貴方の思うこと、吐き出してごらんよ。

そうやって
私は偽物の私で彼を包み込むの。

本当のことだけど、
偽物が「本当」を話すの。

大好きよ。
だから私は貴方の味方。
貴方が酷い人間であっても
私は貴方を愛すの。

ねぇ、酷いこと言うようだけど、
似た者同士、一緒にならない?
そばに居てくれない?
私、独りぼっちが嫌いになったの。