私を抱いていて両手が塞がっているせいか、それともいつもの癖なのか、隆守はノックせずに理事長室に入った。

私は隆守の胸に顔を埋めたまま、顔をあげなかった。


隆守「秋、部屋借りるぞ」


隆守が声をかけたのは理事長の渡部 秋-watabe syu-。

秋は春風の4代目総長だ。

入学してからここに来るのは何度かあったため、驚くことはなかった。


隆守は理事長室の先にある小部屋に入った。

そこは窓がなく、壁も天井も床も黒い部屋だ。

しかし、ベッドだけは白く黒い花が散らされている。

ここは私の部屋。

保健室だと男の先生や生徒がくる可能性があるから、と秋が作ってくれたのだ。


私はその部屋のベッドに寝かされた。

優しく私の頭に触れ、ヘッドホンとメガネを外す。

そしてベッドの隣にある机にを置いた。

そのままベッドの横に座り私の頭を撫でる。


隆守「さっきはごめんな。恋の後ろにいたのが羽場 優夜-haba yuya-。で、その隣にいたのが国崎 嵐-kunisaki ran-。嵐が8代目総長で優夜が幹部」


あぁ、あの2人は隆守たちの後輩なんだ。
だから会わせようとしたんだな。


恋「でもやっぱり……」

隆守「言わなくても分かってる。悪かったな」


やっぱり私にはあの人たちは無理だった。

秋や隆守、悠たちのように近づいたり触ったりすることはできないようだ。

隆守の優しさが私の胸に染みて涙が溢れた。


隆守「ここにいてやるから、少し寝ろ」

秋「ちょっと悪いな。悠が来たぞ」


悠……五十嵐 悠-ikarashi haruka-。

私と同い年の高校2年生。

さっきの電話相手。


恋「悠……!」

隆守「悠が来たから大丈夫だな。秋と隣にいるから何かあったら言え」


私の頭から隆守の手が離れ寂しく思ったが、すぐに悠の手が置かれ笑みがこぼれた。

信用している人の手は温かくで気持ちいい。


恋「ね、悠」

悠「はぁ……隣に来いって言うんだろ」


ため息をつきながら、悠は私の隣に入ってくる。

人と寝るためにこの部屋のベッドはダブルベッドになっている。

悠はベッドに入ると、優しく私を抱きしめてくれた。


恋「怖かった。すごく……怖かった」

悠「あぁ、大丈夫。俺がいるから安心して寝ろ」


悠は一定のリズムで私の背中を叩いた。

悠がいることに安心をして私は眠りに落ちた。