その日の夜。

なかなか寝られなくて、真っ黒な携帯の画面を見つめていた。


ナギに会いたい。
ナギと話したい。


ナギに会う手順、ちゃんと聞いておけばよかったと後悔した。

叩いてもこすっても、なにをどうやったって現れない。


さよならぐらい言わせてよ。
そんなに急いで行かなくてもいいじゃない。


文句……言いたいよ。


携帯の画面に頬に当てる。

ひんやりとした感触が、さっきのキスを思い出させ、寂しさを倍増させた。
涙がツーッと頬に伝わり、携帯の画面を濡らしていく。



「……泣くな」


えっ……?この声?

ナギに会いたすぎて、いよいよ幻聴が聞こえるようになった?

私は、頬から携帯を離すと、涙で濡れた画面を見る。


「大丈夫か、これ?防水きいてんの?あんまり泣くと、使えなくなるぞ。」



うそっ……。
濡れた画面を慌てて拭くと、あの優しい笑顔がはっきりと映った。


なんで……。

「ナギ!……どうして?」


ナギは、耳たぶを触りながら、ぽつぽつ話しはじめた。


「いやぁ…帰ろうとしたんだよ、途中まで……でも、帰るには、まだ時間があるから……。」


「時間ってあとどれくらい?もしかして、私を心配して、戻ってきてくれたの?」


「時間は……そっちの夜明けまで。戻ってきた理由は……やっぱり、失恋させたことが気になって……自分で言ったくせに、変な奴だと思うだろうが、勇気なんか授けなかったら、こんなに夜中まで泣かせてしまうことなんか、なかっただろうから……」


ナギは、薄くなっている両手を合わせ、申し訳なさそうに私を見上げた。


「真友は平気だって言っていたけど、こんな夜中まで泣くほどつらかったんだよな……ごめん」


あれ?ナギは、私が失恋したから泣いていると思ってる……?

さっきは、私の心が読めていたように見えたんだけど、今はわからないの?


「こんなとき、そばにいて慰めてやりたいんだけど……俺、見ての通りこんなだから……ごめん……友達だって初めて言ってくれた真友が、ずっと泣いてるっていうのに、涙さえ拭いてあげられない」