< そんな言い方しないでよ >
あの日、あいつは結局、最後まで彼女の話題に触れようとしなかった。
ってことは、やっぱり話したくないんだろうな。
あの二人は「ただならぬ関係」に違いない。
そう思うと、余計に気になって仕方がない。
だけど、まさか私から聞くことはできないし、下手に探りを入れる訳にも行かない。
だから、心配だし、イライラするし、不安でたまらなくなる。
焦りが募って、何度思い出しても切なくなって来る。
でも、こんな気持ちになるのはどうしてなんだろう。
彼女があいつの大切な人かもしれない.......って思うから?
もし、そうであっても我慢するしかない。
もちろん面白くはないけど、だったら尚更、この気持ちは表に出しちゃいけない。
部外者の私にどうこう言う権利はないし、そもそも好きになっちゃいけない相手でしょうが。
たまに胸の内でドキドキすることはあってもそこで留めておくべきだし、あいつが彼女を愛しているなら、私の淡い思いなんぞ、即刻、抹殺するしかない。
自分の置かれている立場をわきまえたら、そんなのは当然だ。
ちゃんとわかってる。
わかってるけど..........
思い出す度、胸が苦しくなる。
あいつの暗く沈んだ横顔が、頭にこびりついて離れない。
だって、あの顔は悲しい顔だもん。
あいつはきっと、人に言えない悩みを背負ってるっていうことなんだよね。