二人が話していたのは、そんなに長い時間じゃなかったと思う。

静かに会話を交わした後、彼女はまたすぐに車に乗り込み、去って行ってしまった。

なのに、あいつはそれを見送る訳でもなく、ただその場に立ち尽くしているだけだった。


やっぱりおかしい。

ゆっくりとこっちに戻って来る間も、あいつの表情は暗く沈んだままだ。

何て声をかければいいいんだろう。

それとも、何も言わずにいるべき?

どうすることが正解なのか、答えが見つからない。


それに、私だって動揺している。

彼女があいつにとって、特別に大切な人だったりしたら..........

微かに芽生え始めたこの思いは、無かったことにしなくちゃいけないの?


「待たせたな。申し訳ない。」

「う、ううん。」


ビクっとして顔を上げたら、あいつは笑顔を作って見せた。

咄嗟に私も笑って見せたけど、元気の無い笑顔に、それ以上どう反応したら良いのかわからない。


運転席に乗り込んだ後も、あいつは口を開こうとしない。

考え込んでいるのが、その様子から読み取れる。


何があったんだろう。

気にせずにはいられない。

沈黙に耐え切れなくなって、チラチラ顔色を伺っていたら、あいつは大きく深呼吸をして、困ったような顔をした。


「何?」

「え? あぁ、うん.....。」

「何でもないから。」

「へっ?」

「気になってんだろ?」

「それは..........うん。」