しょうがねーな、まったく。

いや、いや、何言ってんの、私。

この人は翼のお友達のお父さんだから。

要するに、ママ友みたいなもんだと思えばいいのよ。

転園してからそういう友達もいなかったし、これって大助かりじゃない。


「じゃあ、ここで。うちはここ曲がった奥のアパートだから。」

「へえ。保育園から近いんだね。」

「ちなみに、その工務店がうちの会社。」

「え?ここ?」

「俺が遅い日は、ここで希を預かってもらってる。」

「ふ~ん。」


そう言われて視線の先を辿ると、大きな古いお屋敷の横に「松澤工務店」という看板が見える。

ってことは、この人、やっぱり職人さんなんだ。


表札にも「松澤」って書いてあるから、このお屋敷が社長のお家なのかな。

お迎えしてもらった上、こんなお屋敷で預かってもらえるなんて、何かいろいろ羨ましい。


「翼さ、ちょっと熱くない?」

「え?」

「遠足ではしゃぎ過ぎて疲れちゃったかな。熱出ないといいけど。」

「やだ、ホント?」


肩から下ろされた我が子の額に手を当てると、確かに少し熱いような気がする。

何だか嫌な予感。

手を握っても、同じように熱いし。


頼むから、熱出したりしないでね、翼。

明日は簡単に会社を休む訳にはいかないの。

頑張って、どうにか持ちこたえて。

せめて37.5℃の壁だけはクリアして。