若の瞳が桜に染まる

「あれ、蘭は?」

軽トラから降りてくるのは旬一人だった、


「拗ねてるんですよ。荷物が部屋に着いたら手伝うって言ってましたけど」

「しょうがないな…。
まぁ、男二人いれば十分な量だし、運ぶとするか」

我久と旬が数回、軽トラと部屋を往復する間、日和はずっと依子や他の住民に捕まっていた。

ここで暮らしたのは入社が決まってからの一ヶ月ちょっとのはず。その短い期間でこれだけ愛されている日和を、我久は素直に羨ましく思い、尊敬した。

「それじゃあ、皆またね」

助手席から手を振って別れを告げる日和。
軽トラが動きだし、どんどん民家の前にたつ人々が小さくなっていっても、見えなくなるまで手を振り続けた。
それは住民も同じで、ずっと大きく手を振っていた。
そんな彼らを、我久は荷台から眺めていた。

運転手を頑なに譲ろうとしない旬のせいで、荷物の見張り役となった我久。

「俺の扱い、雑じゃない…?」

風に揺れる名もわからない花に、そう愚痴をこぼした我久だった。