今まで接してきた誰もがそうだった。
我久を天祢組の組長の孫だと知った途端に関わらないように距離を置くか、我久を怒らせないようにと表面だけの関係となるか。そのどちらかだった。

「怖くないよ。
天祢さんは私を助けてくれた。
あの時は、もう駄目だって思ったから、天祢さんが庇ってくれたときは嬉しかったの。
そんな人を怖がるなんて、なにがなんだか…。

…私の考え方変?」

日和には、我久が正義の味方にでも見えたのだろうか。
自分は決してそんなキャラではないのにと、我久はくすっと笑っていた。

「…変わってるかも」

そう言いながら、心が軽くなっていくような、風が体を通り抜けるような涼しさを感じていた。

旬や蘭が慕ってくれているのとはまた別の、今まで誰も満たしてくれなかった部分が満たされていくような、そんな温かさに包まれていた。

「日和もさ、俺のこと我久って呼んでよ。

今日から夫婦なんだから」

すると日和は、桜色の髪を揺らして頷いた。

こうして、この日から日和を守るための、若頭と人質の結婚生活がスタートした。